8日目


―ピピピ…。


部屋に響く電子音に目を覚ます。


ポチ、とボタンを押して音を止め、俺は違和感を感じる。


いつもは名前が消してるよな?


まさかもう起きてるとか?と一瞬考えたが、隣に感じた温もりにすぐに考えを消す。


「……名前?」


名前に視線を移すと、いつもより上気して赤い頬と軽く寄せられる眉に気がつき、声をかける。


漏れだす吐息は熱く、額に触れると熱が出ていることは明らかだ。


『ん……。キルア?』


俺の声にうっすらと目を開けた名前の目は、熱のせいか潤んでいて焦点が定まっていない。


「名前、熱出てる。俺の風邪が移ったんだ」


そういえば、昨日寝てる名前にキスしたんだった。


もしかしたら、そのせいで風邪が移ったのかもしれねえ…。


どうしようと頭を抱えて罪悪感に苛まれていると、名前が優しく俺の頬を撫でた。


『違うよ、キルア。私なら大丈夫だから。そんな顔しないで?…朝食、軽い物でいいかな?』


俺を心配させまいと笑顔で無理に起きようとした名前の肩を押してベッドに戻す。


とにかく名前には休んでてもらわないと。


「名前は寝てろ!…何かして欲しいこととかあるか?」


俺がそう聞くと、名前は困ったように眉を下げて笑った。


『じゃあ…、朝食はパンをトースターとかで焼いて食べてくれる?お昼は冷蔵庫に昨日の残りがあるから電子レンジで温めて食べてね。後は…、体温計と薬と水持ってきてほしい』


名前は風邪をひいてまで俺の心配ばかりする。


そんな名前に、今日は家事ってやつを俺が一人でこなして、名前を休ませてやろうと密かに考えていた。


††††††††††


名前に言われた通りに、体温計と薬と水を持って行く。


名前の体温は39.4度とかなり高い。


けど、名前は平熱が37度あるから全然平気だよ、と笑っていた。


確かに名前の体温は高いけど、さすがにしんどいはずだ。


それでも俺に心配かけまいと笑う名前に、胸が締め付けられる。


俺をもっと頼って、俺にもっと甘えて…と言いたくなる。


せめて何か作れたらな……。


俺はそう思い、名前が薬を飲み終え眠ったのを確認すると、布団をかけてやり台所へと向かう。


あ、その前に蒸しタオルが必要か。


名前は俺が風邪をひくと、いつもタオルをおでこに乗せてくれていた。


俺は見よう見真似で蒸しタオルを作ると、寝ている名前のおでこにタオルを乗せる。


寝苦しそうに眉を寄せる名前の頭を撫でてやると、名前は無意識に俺の手に擦り寄ってきた。


††††††††††


焦げ臭い匂いに目を覚ました。


時計を見ると、もうすぐ12時だ。


そう言われれば少しお腹が空いたような気がする。


―ガチャ


「!名前。しんどいのマシになったか?」


そう尋ねてきたキルアの手には少々焦げたお粥がある。


焦げ臭い匂いは台所から匂うため、恐らく他には焦げ焦げのお粥があるんだろう。


きっと、何度も失敗しながら私のためにお粥を作ってくれたんだろうと思うと、嬉しさと愛しさが込み上げてくる。


『だいぶマシだよ。…お粥、キルアが作ってくれたんだ。上手く出来たね』


キルアのお粥を指差せば、キルアは頬を赤らめた。


「失敗しまくったし、うめぇか分かんねぇけど…」


照れてそっぽを向くキルアにクスリと笑みが漏れる。


私はありがとう、とお礼を言いお粥を受け取るが、スプーンを渡してくれないキルアに首を傾げた。


『どうしたの、キルア』


「口開けて。俺が食べさせるから」


恥ずかしいからいい、と断ってもキルアは中々折れてくれない。


このまま続けても平行戦だろうと、ついに私のほうが折れた。


大人しく口を開けると、キルアは嬉しそうに私の口に適温に冷やしたお粥を運ぶ。


『…ん、美味しい』


どうどう?と少し不安げな顔をしながら私の顔を見つめるキルアに美味しいと感想を言うと、キルアは嬉しそうに笑った。



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